月末が近づくと、机の上に請求書が積み上がっていく。
紙で届いたもの、メールに添付されたPDF、取引先がスマホで撮って送ってきた写真。
様式はバラバラで、会社名の位置も、金額の書き方も、一枚ずつ違います。
それを一枚ずつ確認し、「会社名・金額・消費税・支払期日」などを、会計ソフトやエクセルに打ち込んでいく。
打ち込んだら、次の一枚。また確認し打ち込む。
一枚あたり、慣れていても5分や10分はかかる。
それが50枚あれば、半日では終わりません。
100枚を超える会社では、月末の数日が、丸ごとこの業務で消えていきます。
実際に、このような声を耳にします。
「月末の三日間は、ずっと残業で、この仕事が終わるまで休めない」
「四人がかりで確認しても、十営業日かかる。今月も終わらない、が毎月の風物詩です」
しかも、ただ時間がかかるだけではありません。
ずっと数字を打ち続けていると、どうしても、間違いが起きます。
「¥1,234,500」を「¥123,450」と、一桁少なく打ってしまう。
支払期日を見落として、取引先から催促の電話がかかってくる。
そうした小さなミスが、いつ起きるか分からない——その緊張感もまた、この作業の重さの一部です。
そして、おそらく一度は、こう思ったことがあるのではないでしょうか。
「これ、AIでなんとかならないのだろうか」と。
答えは、「なんとかなります。」
実際、私はこの請求書の入力をAIに任せるツールを自作し、半日かかっていた作業を数分と目視の確認だけ、というところまで縮めました。
ただ、ここで正直にお伝えしておきたいことがあります。
「AIに請求書を読ませる」という方法を、多くの方が一度試して、そして「思ったほど変わらなかった」と感じているのです。
私自身も作ってみて初めて分かったのですが、この作業を本当に楽にする鍵は、「AIがどれだけ賢く読めるか」だけではありませんでした。
この記事では、その「思ったほど変わらなかった」原因がなぜ起きるのか。
そして、どうすれば業務時間が半日から数分に変わるのか。
実際に作って数字で測ってみた話を、わかりやすく説明していきます。
「OCRなら前に試したが、あまり便利さを感じなかった」
請求書の読み取りというと、「OCR」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
OCR(オーシーアール)とは、画像や紙の上の文字を、コンピューターが読み取ってデータに変換する技術のことです。
これ自体は、何十年も前からある、こなれた技術です。
ですから、「請求書をデータ化したい」と考えた会社の多くが、まずこのOCRを試しています。
そして、かなりの割合で、このような感想を持って終わっています。
「入れてはみたけれど、結局、半分くらいは手で打ち直していた」
「むしろ、AIがちゃんと読めているかを確認する作業が増えただけだった」
これは、その会社の担当者が使いこなせなかった、という話ではありません。
道具の種類が、請求書という仕事に元々向いていなかったのです。
少し、理由を説明させて頂きます。
昔ながらのOCRは、いわば「決まった場所を見る」道具です。
「この用紙の、右上に日付がある」「左下に金額がある」と、あらかじめ位置を教えておくと、その場所を読みにいく。
役所の申請書のように、誰が出しても同じ書式のものなら、これでうまくいきます。
ところが、請求書は、そうはいきません。
取引先が100社あれば、請求書の様式は100通りあります。
A社は金額が右上、B社は左下、C社は写真で少し傾いている。
「決まった場所を見る」道具にとって、これは一番苦手な相手です。
一枚、見たことのない様式が混じるだけで、読み取りが崩れてしまう。
実際、ある実務者の方は、「同じ取引先から届く請求書が、一枚だけ様式の違うものになっただけで、それまで覚えさせたルールが壊れた」と不満を漏らしていました。
そして来月、また元の様式に戻ると、今度はそちらがうまく読めない。
こうした微調整の手直しと確認作業に追われて、「自動化したはずなのに、やっていることは前と変わらない」という状態になってしまっていました。
しかも、これは特殊な業種に限った話ではありません。
取引先が10社あれば、請求書の様式は10通りになります。
紙で届くもの、PDFで届くもの、写真で送られてくるもの。
そのすべてに「決まった場所はここ」と教え込んでいくのは、現実には、ほとんど不可能に近いのです。
「OCRを入れたのに、便利さを感じなかった。」
もし、そう感じたご経験がある場合でも、それはごく自然なことだったのです。
「位置で読む」道具と「意味で読む」道具
では、最近の「AIで読む」は、何が違うのでしょうか。
ここ数年で広まった生成AIは、文字を「位置」ではなく「意味」で読むことが可能です。
これが、昔ながらのOCRとの決定的な違いです。
具体的にはどういうことか。
例えば、私たちは初めて見るフォーマットの請求書を渡されたとしても、何が書いてあるかおおよそ理解することができると思います。
「この数字の並びは、たぶん金額だな」
「ここに会社名が書いてあるな」
「この日付が、支払期限だろう」
——たとえ初見だったとしても、おおよそ見当をつけて書式の内容を読むことが可能です。
生成AIが行っているのは、これに近いことです。
「決まった場所」を見るのではなく、「これは金額らしい」「これは取引先の名前だ」と、意味で判断して拾っていく。
そのため様式がバラバラでも、写真が少し傾いていても、対応できる。
取引先が100社あって100通りの様式が混じっていても、人が一枚ずつ目で見て読むのと近いことができるわけです。
これが、「決まった場所しか読めなかった」OCRと、一番違うところになります。
「OCRはダメだったけれど、AIならいけるらしい。」
この感覚は、正解です。

——ここまで読んで、「では、AIを使って請求書を読んでもらえばいいのか」と思われたかもしれません。
はい、是非使ってください。
ただ、一つだけ先にお伝えしておきたいことがあります。
請求書を「読める」ようになっただけでは、まだ、あの半日は消えません。
本当の山は、その先にあるからです。
本当に大変なのは「読み取った後」
請求書の処理を、一枚の流れとして分解してみましょう。
すると、このような作業工程になります。
- 請求書を受け取る(紙・PDF・写真)
- 中身を読み取り入力する(取引先・金額・消費税・期日など)
- 読み取った内容が合っているか、確認する
- インボイスの登録番号が正しいか、確かめる
- 使っている会計ソフトに、取り込める形にして入れる
先ほどまで話していた「AIで読む」は、このうちの「2」だけです。
全体の、ほんの一工程にすぎません。
もし「2」だけがAIになって、3から5が手作業のままだったら、どうなるでしょう。
読み取りは速くなったのに、その後の確認と入力で、結局また時間がかってしまいます。
そのため、業務時間を半日を数分する場合、「読み取った後」の三つの工程をも設計しておく必要があります。
① 確認作業をできるだけ軽くする
まず、大前提をお伝えします。
AIは、間違えます。
どれだけ賢くなっても、100枚読めば、数枚は読み違える。これは、なくなりません。
例えば、よく似た数字の桁を、一つ読み飛ばす。手書きの癖のある字を、別の文字と取り違える。
人でも見間違えるようなところは、AIも同じように間違えます。
ですから、「AIが読んだのだから、もう確認しなくてよい」とは、決してならないのです。
だからといって、全部を人が一から確認していたら、意味がありません。
ここで効いてくるのが、確認の「させ方」です。
私が大事だと考えているのは、「元の請求書と、AIが読み取った結果を、並べて見比べられる」ようにしておくことです。
左に元の請求書、右にAIが読み取った内容を並べておく。
そうすれば、人が行うのは「ゼロから入力する」ことではなく、「合っているかを、目で見て確かめる」ことになります。
一から打ち込むのと、既に入っているものを見比べて直すのとでは、かかる時間も、神経のすり減り方も、まったく違います。
ここが、本当に楽になるかどうかの、最初の分かれ目です。
② インボイスの登録番号という地味で重い作業
2023年に始まったインボイス制度で、経理の現場には新しい確認作業が一つ増えました。
受け取った請求書に書かれている「登録番号」(「T」で始まる13桁の番号です)が、本当に登録された事業者のものか、一件ずつ確かめる作業です。
これが、想像以上に重い。
ある調査では、インボイス制度で増えた事務負担のうち最も多かったのが、この「取引先の登録状況の確認」でした。
そして、その確認を、今も約7割の担当者が「目で見て」行っています。
請求書が届くたびに、国税庁のサイトで番号を打ち込んで検索する——これを毎月、何十件と繰り返しているわけです。
想像してみてください。
請求書が30枚あれば、30回国税庁のサイトを開いて、番号を打ち込んで結果を確かめる。
しかも、これは制度が始まってから新しく増えた作業で、以前にはなかったものです。
売上にも、利益にも、直接はつながりません。
それなのに、毎月確実に時間だけを奪っていきます。
ここも、本来はコンピューターが得意なところです。
番号が正しい形式か、有効な番号か。
こうした突き合わせを自動で行っておけるかどうかで、月末の負担は変わってきます。
③ 会計ソフトに「取り込める形」にするまで
読み取って、確認できた。
最後に、それを会計ソフトに入れます。
ここで一つ、見落とされがちなことがあります。
会社によって、使っている会計ソフトは違います。
freee(フリー)を使用している会社もあれば、マネーフォワードや弥生(やよい)の場合もある。
そして、それぞれ「取り込める形」(多くはCSVという、表計算ソフトで開ける形式です)が微妙に違います。
読み取った内容を、使っているソフトに合わせた形に変換するところまで済ませて、ようやく作業が完結します。
さらに言えば、会社が将来、別の会計ソフトに乗り換える可能性もあります。
そのたびに仕組みを作り直すのは大変ですので、特定のソフト専用にせずどのソフトにも合わせて書き出せるようなフォーマットにしておく。
ここも、長く使える仕組みにするうえで大事なところです。
このように、「AIで読みこむ」作業は、確かに入口としては大きい。
ただ、「読んだ後の段取り」も時間を短縮する上で重要だということです。
そして、もう一つ。
こういったAIツールを設計するうえで、私が大切にしている考え方があります。
それは、最初から最後まで「全てをAIに任せてはいけない」ということです。
これは、AIをうまく使っている会社に、共通している考え方でもあります。
完璧な全自動を狙うと、大抵、どこかで運用が壊れます。
最初はうまくいっても、一枚イレギュラーな請求書が来た瞬間に、誰も気づかないまま間違った数字が通ってしまう。
そうではなく、AIには「下書き」までを任せ、最後の確定は人が行う。
金額や取引先の名前など、間違えてはいけないところには、きちんと人の目を入れる。
一見遠回りに見えるかもしれませんが、この関わり方が後々一番大切になってくると考えています。
請求書を読み取る道具を自作してみた
ここまでの話を全て一つにまとめた業務改善ツールを、実際に作ってみました。
名前は「InvoiceHarvest(インボイスハーベスト)」といいます。
なぜ、数ある業務作業の中で、請求書を扱うツールを最初に選んだのか。
理由は単純で、これがどの会社にも必ずある作業だと思ったから。
業種や規模が違っても、請求書の処理だけは、どの会社も行っている。
この業務時間を短縮できるツールを作れれば、多くの方の役に立つはずだと考えたからです。
実際に何をするものかというと、請求書のファイル(PDFや画像)をまとめて放り込むと、AIが一枚ずつ読み取り会計ソフトに取り込める形に変換してくれるというものです。
複合機で何枚もまとめてスキャンした、束のPDFでも構いません。
自動で一枚ずつに分かれて、それぞれが読み取りの対象になります。
また設計の中で意識したことは、先ほどの「読みこんだ後」の作業も正確に行うことでした。
- 様式に縛られず、項目を正確に読む(第2節のAIの考え方です)
- 元の請求書と読み取り結果を、並べて見比べられる(確認を軽くする)
- インボイスの登録番号を、国税庁の公表情報と突き合わせて確認する
- freee・マネーフォワード・弥生など、使っているソフトに合わせた形で書き出す
- そして、最後の確定は、必ず人が行う
正直なことを言うと、作りはじめたときの私は少し楽観していました。
「最近のAIは賢いのだから、請求書くらいすぐ読めるだろう」と。
ところが、実際に動かしてみると、そう単純ではありませんでした。
最初に試したときは、思ったほどの正確さが出なかったのです。
例えば、「請求書を出した会社」と「請求書を受け取った会社(宛名)」を、取り違える。
振込先の欄から、銀行の名前ではなく、別の文字を拾ってしまう。
人なら間違えないようなところで、AIは意外なつまずき方をしました。
そこで、ただ「読んで」とお願いするのではなく、「この欄は、何を意味する場所なのか」を、一つ一つ丁寧に伝えるようにしました。
さらに、読み取った後に、明らかにおかしい結果を自動で直す仕組みも足しました。
例えば、インボイスの登録番号には、番号自体の誤りを検出できる検査の仕組みが、もともと組み込まれています。
これを使えば、AIが一桁読み違えても、計算が合わないため、その場で警告を出せます。
「AIは間違える」という前提に立つからこそ、間違いを機械的に捕まえる網を、何重にも張っておくわけです。
こうした地道な調整を重ねて、ようやく実用になる数字になったのです。
「AIに任せる」と一言で言っても、その裏ではこうした人の判断と工夫が必要でした。
逆に言えば、ここを飛ばしてただ最新のAIに丸投げするだけでは、あの「思ったほど変わらない」に逆戻りしてしまう。
道具の新しさではなく、業務を分かっている人がどう設計するか。
差がつくのは、結局そこなのだと思います。
ここで、検証時の実際の数字をお見せします。
様々な異なる様式の請求書を10枚用意し、そこから読み取るべき項目(取引先・金額・日付・登録番号など、合わせて120か所)を、AIにどれだけ正しく読めるか試しました。
- 正しく読み取れたのは、120か所のうち約96%
- 一枚あたりの読み取り時間は、数秒
- 一枚あたりのAIの利用コストは、1.5円ほど
96%ですから、完璧ではありません。
振込先の銀行名を読み違える、といったミスは残りました。
ですが、これは「困ったこと」ではなく、「最初から想定していたこと」です。
だからこそ、「元の請求書と並べて見比べる」確認の画面を、この道具の中心に置きました。
AIが下書きをし、人が最後にさっと確認して、確定する。
正確さを100%に近づけることよりも、「人の確認を、どれだけ軽くできるか」のほうを、設計の軸にしたわけです。
実際の画面では、左側に元の請求書、右側にAIが読み取った項目が並びます。
担当者がすることは、目で見て、合っていれば次へ、違っていればその場で直す。それだけです。
一枚をゼロから入力していた頃と比べると、頭の使い方が、まるで変わります。
「打ち込む」作業から、「見て、頷く」作業へ。
同じ「確認」でも、この差は思いのほか大きいのです。
その結果を、Before / After にすると、このような変化になります。
これまでは、月末に数十枚の請求書を前にして、一枚ずつ開いては打ち込み、半日がかりで入力していました。
それが、まとめて放り込んで数分待ち、後は画面で見比べて、おかしいところだけ直す——という形に変わります。
(どれくらい縮むかは、枚数や様式によって変わります。ここは誇張せずにお伝えしておきます。)
この「読んで、確認して、会計ソフトまで通す」を、一連の流れにしたこと。
そして、人が確認するべき作業をきちんと残したこと。
これが、半日と数分を分けていたものの、正体でした。

「AIにデータを渡すのは不安が残る」という相談
ここまで読んで頂き、気になっている方もいると思います。
請求書には、取引先の名前も、振込先の口座も載っています。
「そんな大事なものを、AIに読み込ませて大丈夫なのか」と。
これは、AIを取り込んでいく中でとても重要な観点です。
さらには、「うちは、社の方針で生成AIの利用が禁止されている」 「お客様の情報を外に出すことは、契約上できない」
——こうした会社は、実際にたくさんあります。
実は、こうした不安にも答えられるようにしました。
つまり請求書のデータを、社外に一切出さずに、同じことをする方法です。
仕組みとしては、AIをChatGPTなどの外部サービスではなく、社内のパソコンの中だけで動かす方法です。
(最近は、性能のよいAIを自分のパソコンの中だけで動かすことができるようになりました。これを、ここでは「ローカルAI」と呼びましょう。)
このローカルAIを使用すると、請求書のデータは会社の中だけに留まり、一歩も外に出る心配がありません。
「社内で動かす」というと、大がかりなサーバーや、特別に高価な機械が必要に思えるかもしれません。
ですが私が試したところ、少し性能の良いパソコンが一台あれば十分に動きました。
何百万円もする設備は、要りません。
経理部の隅に、一台置いておく。それくらいのイメージです。
「でも、社内で動かすAIだと、精度が落ちるのでは」と思われるかもしれません。
これも、実際に測ってみました。
結果は、先ほどと同じ10枚を試したところ、正しく読めたのは約91%。
一枚あたり6秒ほどで、AIの利用コストはゼロ円でした。(電気代を別にすれば、ですが)
正直、私も試してみるまでは半信半疑でした。
ところが、この社内で動く小さなAIが外部の簡易なAIサービスよりも、むしろ良い結果を出したのです。
もちろん一番性能の高い、最新のクラウドAIと比べれば、社内で動かすAIの正確さは少しだけ劣ります。
それでも、9割を超える正確さがあれば、先ほどの「並べて見比べる」確認とあわせて、十分に実用可能レベルです。
何より、「データが社外に出ない」という安心は、その数パーセントの差を補えるものだと考えています。
生成AIの利用を止めている会社でも、これなら検討できるのではないでしょうか。
例えば、お客様の個人情報を多く抱える、士業の事務所。
図面や原価といった、社外に出せない情報を扱う、製造業。
官公庁との取引があり、情報の管理を厳しく問われる会社。
こうした「クラウドには載せにくい」業種ほど、社内で完結する仕組みの価値は大きくなります。
「うちは無理だ」と諦めていた会社にこそ、知っておいてほしい選択肢です。

よくある質問(請求書の自動化で、よく聞かれること)
ここまでの話で、実際によく尋ねられることをお答えします。
Q. 手書きや写真の請求書も混じっているのですが、読めますか?
読めるものが多い、というのが正直なところです。
意味で読むAIは、写真や、多少崩れた様式にも対応します。
ただし、かすれた手書きや画質の悪い写真など、人でも読みにくいものは、AIも苦手です。
ですから「読めなかったものは、人が確認して直す」という前提を、最初から組み込んでおくのが現実的です。
全部を完璧に、ではなく、大半を任せて、残りを人が拾う。これで十分に時間は縮みます。
Q. 会計ソフトは、何に対応していますか?
freee・マネーフォワード・弥生といった、主要なソフトの取り込み形式に合わせて書き出すことを前提に作っています。
特に弥生は、文字コードまで含めて取り込み形式に癖があるため、専用の書き出しを用意しました。
大切なのは、「特定の会計ソフトを使っていないと意味がない」道具にしないことです。
会社によって使っているソフトは違うので、柔軟な作りにしておく。これは設計の段階で決めていたことです。
Q. 精度は、結局どれくらい信用できるのですか?
「人の代わりに、勝手に確定までしてくれる」ものとしては、考えないでください。
AIは間違える、という前提に一緒に作業をしていくのが正しい付き合い方です。
そのうえで、「一から打ち込む」のではなく「読み取られた内容を確認して直す」に、人の仕事を変える。
これだけで、かかる時間も、打ち間違いのリスクも、大きく減ります。
精度の数字(約96%)は、あくまで「人の確認をどれだけ軽くできるか」の目安として見てください。
Q. 情報が外に漏れないか、心配です。
真っ当な心配です。
だからこそ、先ほどの「社外に一切出さない」方式を用意しています。
どこまでの情報を外に出してよいか、それとも一切出さないか。
ここは、業務を始める前に決めておくべきことです。
「決めてから入れる」だけで、不安の多くは消えます。
Q. コストは、どれくらいかかりますか?
考え方として、お勧めしているのは、「まず、いま何時間かかっているかを数えてみる」ことです。
例えば、月に50枚を一枚15分で入力していたら、それだけで月に12時間以上。
その時間の人件費と、道具にかかる費用を、並べて比べてみる。
そうすれば、「高いか安いか」を、感覚ではなく数字で判断できます。
請求書の処理は、毎月必ず発生します。だからこそ、一度仕組みにしてしまう価値があります。
Q. 月に数十枚くらいなのですが、それでも意味はありますか?
枚数が少ない会社ほど、実は、経理を専任で置いていないことが多いものです。
ある調査では、規模の小さな事業者の約8割で、社長や営業の担当者が、経理を兼ねていました。
つまり、本業の傍らで請求書を打ち込んでいる。
そういう方にとっては、たとえ数十枚でも、月末のその数時間が戻ってくることの意味は、決して小さくありません。
請求書が片付くと他の作業も効率可能に
このインボイスハーベストを作ってみて気づいたことがあります。
請求書の処理を「読んで、確認して、決まった形に流す」と分解したとき、私はふと、他の作業のことを思い浮かべました。
見積書の作成。受発注の処理。毎月の定例報告。
よく見ると、これらも、構造はまったく同じです。
何かを「読み取り」、内容を「確認し」、決まった形式に「流し込む」。
請求書とそっくり同じ顔をした作業が、社内のあちこちに転がっているのです。
実際、私のところに寄せられる相談も、入口は請求書でも、話していくうちに「そういえば、あの作業も」と広がっていくことが、ほとんどです。
受発注の控えを、エクセルに転記している。
毎月の数字を、決まった書式の報告書に打ち直している。
どれも、「読んで、確認して、決まった形に流す」という、同じ骨組みでできています。
そのため、一度AIを使用し業務効率化ができた会社は、さらに他の業務へと転用するのが速くなります。
「あの作業も、同じやり方でいけるかもしれない」と、見当がつくようになるからです。
一番負担の大きい請求書を最初に選んだのは、そのためでもありました。
一つを仕組みにできると、二つ目、三つ目が、自然と見えてくるのです。
さいごに
「請求書処理に、毎月半日かかっている。」
この記事は、その一言から始まりました。
ここまで読んで頂き、半日が数分に変わるのは「すごいAIを見つけたから」ではない、ということが伝わって頂ければ嬉しいです。
データの読み取りはもちろん大事ですが、本当に重要だったのは「読みこんだ後」——確認作業を軽くし、登録番号を確かめ、会計ソフトまで一本でつなぐという設計のほうでした。
そして、最後の確定は人が行う。
派手ではありませんが、これが長く続く形だと考えています。
請求書はどんな会社にも必ずある、いわば「全業種共通の入口」です。
そしてここが短縮できると、不思議と他の作業にも目を向けることが可能です。
見積書、受発注、定例の報告書。
「読んで、確認して、決まった形に流す」——構造が同じ仕事は、社内のあちこちにあるものです。
最後に、一つだけ、小さな提案をさせてください。
いつも行っている業務を前にしたとき、少しだけ手を止めてこのように考えてみてください。
「この作業をもし新しいスタッフにお願いするとしたら、どこまで任せて自分はどこを確認するだろう?」
この考え方こそが、AIに任せるための業務効率の第一歩です。
「任せられるところ」と「自分に残すところ」を、思い浮かべる。
そこから、すべてが始まります。
もしこの記事をお読みになり、「うちのあの作業も、任せられるだろうか」と思い浮かんだものがありましたら、お気軽にご相談ください。「それは任せられそうです」「それは、まだ人が確認したほうがよいかもしれません」といったところから、一緒に整理させて頂きます。御社の「毎月半日溶けている作業」の棚卸しから、お手伝いできます。
お問い合わせ →この記事に出てきた言葉(簡単用語集)
- OCR:画像や紙の上の文字を、コンピューターが読み取ってデータに変換する技術。昔からあるが、「決まった場所」を読むのが基本のため、様式がバラバラな請求書は苦手。
- 生成AI:文章や意味を扱えるAI。文字を「位置」ではなく「意味」で読めるため、様式が違っても見当をつけて拾える。
- AI-OCR:上の二つを組み合わせ、AIの力で文字を読み取る仕組みの総称。
- インボイス制度/適格請求書:2023年10月に始まった、消費税の仕組み。請求書に「登録番号(T+13桁)」が必要になり、受け取る側はその確認が必要になった。
- 登録番号(T番号):適格請求書に記載される、事業者ごとの番号。正しい登録事業者のものか、受け取り側が確かめる必要がある。
- 電子帳簿保存法(電帳法):帳簿や書類を電子で保存するときのルールを定めた法律。2024年から対応が必須に。
- ローカルAI:外部のサービスではなく、社内のパソコンの中だけで動かすAI。データが社外に出ないのが利点。
- CSV:表計算ソフトなどで開ける、汎用的なデータ形式。多くの会計ソフトが、この形でデータを取り込める。
この記事の数字について(2026年6月時点)
本文で触れた数字は、次の情報に基づいています。
- インボイス制度で「事務負担が増えた」中小企業=82.2%(2024年)/73.4%(2025年も継続):日本商工会議所・東京商工会議所の調査より。
- 増えた負担で最多が「取引先の登録状況の確認」、約7割の担当者が登録番号の確認を「目視」で実施、対応による業務増は1人あたり月+5.5時間:Sansan「インボイス制度開始後の経理担当者実態調査」(2024年8月)より。
- 電子帳簿保存法の対応で業務負荷が「増えた」=約6割:複数の実態調査(2024年)より。
- 規模の小さな事業者の約8割で、代表者や営業担当者が経理を兼任:日本商工会議所・東京商工会議所の調査(2025年)より。
- 請求書の手入力が1枚あたり10〜15分、月数十時間:各種の実態調査・実務者の体験談より。会社の規模や様式によって変わります。
- 読み取りの正解率(外部のAIで約96%・社内で動くAIで約91%)、1枚あたり数秒〜6秒、コスト1枚1.5円ほど〜ゼロ円:Compora Labs が自作ツールで、合成した請求書10枚(読み取り項目120か所)を対象に測った値(2026年6月)です。実際の運用では、請求書の様式や枚数によって変わります。
数字は時期によって変わります。実際に導入を検討される際は、最新の情報をご確認ください。
文・Compora Labs
